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「花といえば桜」
現在ではそのように言われていますが、
「花といえば梅」
という時代がありました。
春一番に咲く梅の花は
厳しい寒さの中でも可憐な花を咲かせ、
その香りは素晴らしく芳しい。
そんな梅の花はとても好まれたのです。
梅は日本の在来種である、
という説もあるようですが
いまのところは中国から、
奈良時代の頃に遣唐使によってもたらされた
という説が有力のようです。
梅はしばらくの間、
貴族階級の人々のものであったのですが
江戸時代の頃には、庶民が梅の花見をする
ほどに、広く親しまれるのです。
梅についてのことわざは沢山あるため、
今回は梅の花と木にまつわるものを
集めました。
(関連記事→梅干しにまつわることわざ)
それでは、いってみましょ~^^
ことわざとは
伝えられてきた言葉はことわざに限らず、
他に慣用句や故事成語などがあります。
それぞれ言葉の意味合いは違うものの、
昔から人々に役立ち、使われてきたからこそ
伝わってきた言葉。
ことわざ
古くから広く言い伝えられてきた言葉。
生活する上で得られた知恵や知識、教訓。
皮肉めいたものや批判などを含んだ言葉。
これらを短い言葉であらわしたもの。
慣用句
昔から習慣で使われてきた文句や言い回し。
簡潔な文で表された言葉。
梅の文字を含んだ言葉は多々ありますが、
今回はその中から「梅」を指す意味を含む
ことわざ・慣用句を紹介していきます。
梅の花
まずは梅の花についての言葉から。
梅の花
梅の花は褒め讃えられる”たとえ”に使われる
ことが多いですね。
- 梅は百花の魁
- 炎天の梅花
- 桜梅桃李
- 梅は蕾より香あり
- 梅花は莟めるに香あり
◇
「梅は百花の魁」
うめはひゃっかのさきがけ
優れた人は誰よりも先に秀でるもの、
ということ。
早春の寒さが厳しい中で、梅はどの花よりも
先に咲き、春を告げることから。
◇
「炎天の梅花」
えんてんのばいか
めずらしいもののたとえ。
中国(宋)の詩人、簡斎(かんさい)の詩に
『炎天梅蘂(花)』(1688年)というものがある。
ありえないものだが、悟りの境地により
心の目で見えるというもの。
『奥の細道』に「炎天の梅花爰(ここ)に
かほるがごとし」(1693-1694年)という句もある。
◇
「桜梅桃李」
おうばいとうり
他人と比べることなく、それぞれが自分の
個性を発揮しよう、ということ。
桜・梅・桃・李、それぞれが異なる独自の
美しい花を咲かせることから。
1254年(鎌倉時代)の説話集、
『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』(※)の
『草木』の項にある漢文より。
「春は桜梅桃李の花あり
秋は紅蘭紫菊(こうらんしぎく)の花あり
皆これ錦繍(きんしゅう)の色
酷烈(こくれつ)の匂なり」
※橘成季(たちばなのなりすえ)が編纂。
日本三大逸話集のひとつ。
(ほかに、今昔物語集・宇治拾遺物語)
◇
「梅は蕾より香あり」
うめはつぼみよりかあり
「梅花は莟めるに香あり」
ばいかはつぼめるにかあり
これらは表現は違うが、どちらも同じもの。
才能のある人、大成する人は、早い頃から
その素質があらわれるということ。
梅の花は、つぼみの頃からよい香りがすると
いうことから。
花と実
「花も実もある」
はなもみもある
外見の美しさだけではなく、
中身も充実していることをいう。
また、人情も道理も兼ね備えていること。
この言葉は一見すると梅とは関係なさそう
なのですが、この「花」とは梅を差している
と思われる。
梅花と桜
次は「梅花と桜」の言葉。
昔から両者は、なにかと比べられています。
- 梅と桜
- 梅と桜の婀娜くらべ
- 梅と桜を両手に持つ
- 梅は香りに桜は花
- 散るは桜、薫は梅
- 梅が香を 桜の花に匂わせて 柳の枝に咲かせたい
◇
「梅と桜」
うめとさくら
「梅と桜の婀娜くらべ」
うめとさくらのあだくらべ
これもどちらも同じ意味。
美しいものや素晴らしいものが並んでいる
ことのたとえ。
◇
「梅と桜を両手に持つ」
うめとさくらをりょうてにもつ
美しいもの、よいものを両手に持っている。
よいことの上に、よいことがあること。
「両手に花」に同じ。
「花」というのは、梅と桜のこと。
2つのよいものを同時に手にすること。
また、男性が二人の女性を連れていること。
◇
「梅は香りに 桜は花」
うめはかおりに さくらははな
梅は香りがよく、桜は花がいい。
「散るは桜 薫は梅」
ちるはさくら かおるはうめ
桜は散るのがいいのであり、
梅は薫るのがいい。
それぞれの優れているところを表している。
◇
「梅が香を 桜の花に匂わせて 柳の枝に咲かせたい」
うめがかを さくらのはなににおわせて やなぎのえだにさかせたい
それぞれのいちばんよいところだけを集めて、
理想のものにしたいものだということ。
芳しい梅の香りを、美しい桜の花に匂わせて、
しなやかな柳の枝に咲かせたいものだ、
という願望の話。
元は『後拾遺和歌集(ごしゅういわかしゅう)』
(1086年)の中原宗時(むねとき)の歌。
「梅が香を さくらの花に 匂はせて 柳の枝に 咲かせてしがな」
梅の花と木
梅の花咲く木についての言葉。
- 梅に鴬
- 梅に鴬 柳に燕
- 梅に鶯 紅葉に鹿 牡丹に唐獅子 竹に虎
- 歳寒三友
- 松竹梅
◇
次は3つともに同じ意味をもつもの。
「梅に鴬」
うめにうぐいす
「梅に鴬 柳に燕」
うめにうぐいす やなぎにつばめ
「梅に鶯 紅葉に鹿 牡丹に唐獅子 竹に虎」
うめにうぐいす もみじにしか ぼたんにからじし たけにとら
取り合わせのよいもの。
並べると様になるもののたとえ。
絵画などの画題として用いられる。
それぞれ「梅に鶯」「紅葉に鹿」などと個別に
使われたり、言葉を繋げて使われたりする。
「梅に鶯」については別記事にしています。
よろしければどうぞ~。
→ 「梅に鶯」の記事へ。
◇
「歳寒三友」
さいかんのさんゆう
冬の寒い季節に、友となるべき三つの植物。
松・竹・梅、あるいは梅・水仙・竹を指す。
中国で好まれる画題のひとつ。
◇
「松竹梅」
しょうちくばい
縁起のよい、目出度いものの象徴とされる。
元は中国の歳寒三友から伝わったとされるが、
日本での意味あいと違い、中国では清廉潔白、
節操の象徴とされる。
日本での松・竹・梅は、何れもめでたいことの
象徴であり、それぞれにも意味がある。
「松」は冬でも常に緑の葉であることから
長寿を。
「竹」は真っ直ぐに伸び、成長の早さから
生命力を。
「梅」は冬も明けきらない春先に咲くこと
から、逆境に耐える強さや謙虚さを象徴。
松竹梅の順にも理由があり、めでたいものと
もてはやされた時代の古い順になっている。
松は平安時代、竹は室町時代、梅は江戸時代
から吉祥の象徴とされるようになった。
格付けの意味を持って使われることもあるが、本来、優劣はないもの。
梅の木
次は梅の木の性質にまつわる言葉。
梅の花は讃えられるけど、本体の木は…?
- 梅根性に柿根性
- 梅木学問
- 楠の木分限 梅の木分限
- 桃栗三年、柿八年…梅は酸い酸い十三年
- 桜伐る馬鹿 梅伐らぬ馬鹿
- 桃を切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿
◇
「梅根性に柿根性」
うめこんじょうにかきこんじょう
梅根性とは、何をしても本質や性質が変わら
ないこと。
梅は煮ても焼いても何をしても、酸っぱく
変わらないことから。
柿根性とは、すぐに変わりやすい性質のこと。
柿は焼いたり干したりすれば甘くなり、変わりやすいことから。
梅と柿とは、反対の性質を表わしている。
◇
「梅木学問」
うめのきがくもん
にわか仕込みの、不確実な学問であること。
梅の木は生長が早いが、大木にならないことから。
反対の言葉に「楠(くすのき)学問」がある。
◇
「楠の木分限 梅の木分限」
くすのきぶげん うめのきぶげん
堅実な金持ちと、にわか成金のたとえ。
「分限」とは金持ちのこと。
楠は生長は遅くとも、しっかりと根を張り
大木になることに対し、梅の木は、生長が早く
すぐに実をつけるものの、大木にはならないことから。
◇
「桃栗三年、柿八年…梅は酸い酸い十三年」
ももくりさんねんかきはちねん
…うめはすいすいじゅうさんねん
何事にも時間がかかるということ。
ものごとは短い期間では成し遂げられない
ということ。
ほかに「梅の十三年待ち遠い」など、
この言葉にはいろいろな形がある。
詳細は別記事にて書いてます。
よろしければどうぞ~
→ 「桃栗三年」の記事へ。
◇
「桜伐る馬鹿 梅伐らぬ馬鹿」
さくらきるばか、うめきらぬばか
木の剪定についての言葉。
木の性質に合わせた対処が必要であること。
桜の枝を切ると傷みやすく弱ってしまう。
梅の枝は切らないと花がつかないことから。
他にも同様の言葉がある。
「梅は伐れ桜は伐るな」
「桜折る馬鹿 梅折らぬ馬鹿」
「桃を切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿」
何にしても、折ることはいけませんね。
どの木にしても、それぞれの育ち方に合わせた
方法で手入れをしないと、いい具合にはなら
ないものです。
自然
自然によく触れていることからわかる言葉。
豊作
豊作になるよ~という言葉。
- 梅田椎麦
- 梅田枇杷麦
◇
「梅田椎麦」
うめだしいむぎ
梅が多く実る年は、水田の稲が豊作。
椎の実が多い年は、麦が豊作。
◇
「梅田枇杷麦」
うめだびわむぎ
梅が多く実る年は、水田の稲が豊作。
枇杷が多い年は、麦が豊作。
自然の理
古から続く、自然のことわり。
- 梅一輪一輪ほどの暖かさ
- 梅の花、上向きに咲く年は晩霜あり
- 時節の梅花春風を待たず
◇
「梅一輪 一輪ほどの 暖かさ」
うめいちりん いちりんほどの あたたかさ
梅の花が一つずつ咲くに連れ、少しずつ
暖かさが感じられるようだ。
江戸時代の俳諧師で、松尾芭蕉の弟子。
服部嵐雪(はっとりらんせつ)の句。
「玄峰集(げんぽうしゅう)」庭の巻。
◇
「梅の花、上向きに咲く年は晩霜あり」
うめのはな、うえむきにさくとしはばんそうあり
梅の花が上向きに咲けば、遅い霜が降りるよ
ということ。
晩霜(ばんそう)とは、遅霜(おそじも)。
春先の4月頃になって降りる霜のこと。
◇
「時節の梅花春風を待たず」
じせつのばいかしゅんぷうをまたず
天の理は、人の力では変更することができない
というたとえ。自然の摂理。
梅は暖かな春風が吹くのを待たず、
時節が来れば咲いて散ってしまうことから。
人の力では自然に抗うことはできない。
人の存在は、自然の中の一部にすぎないもの
ですよね。
後記
さて今回は、梅のことわざ。
その中でも、梅の花・梅の木を取り上げて
みました。
梅が人々に愛され広まったのは、
・平安時代の貴族社会
↓
・鎌倉時代の武家
↓
・江戸時代の庶民
…ということですが、庶民としては歴史が
長いような短いような?という感じですが、
しかし梅の花と木だけでも、多くの言葉が
あるものですね。
このような言葉を調べているといつも思うの
ですが、昔の人の感性って繊細で洗練されて
いるんだなぁ~ということ。
もちろん皆が皆というわけではないですけど。
現代の私達のように、何でも同じ言葉でまとめ
てしまったり、言葉を端折ってしまったり、
そういう…なんというか、言葉に対しての
姿勢が違うという気がします。
現代より、ずっと機微な表現の言葉を知って
いたり、使っていたのだろうなぁ…とか、
勝手にそんなことを思います。
それでは今回はこのへんで。
ここまでおつきあいくださいまして
ありがとうございます。
あなたのお好きな言葉、お気に入りの言葉は
ありましたか~ヽ(´ー`)ノ