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梅というと風流な響きを感じます。
それは古くから日本人に馴染みがあり、
特別なものとして扱われてきたからでしょうか。
町民文化が花開いた江戸時代。
この時代に発展した浮世絵を見ても、
梅はたいそう身近なものとして
慕われ愛でられていたようです。
今回はそんな、
浮世絵の梅を見ていくことにします。
それではいってみましょう。
浮世絵とは
浮世絵というのはそもそも、俗世間を描いた絵で風俗画と呼ばれるもの。
これが江戸時代に肉筆画から木版画が主流となり、庶民のものとなる。
木版画は江戸時代の印刷物。
当時の娯楽のひとつであり、庶民が手軽に購入できたもの。
いまでは浮世絵といえば木版画、というイメージさえあります。
木版画を作るためには…
- 画家が1枚の絵を描き
- 職人が版に起こし
- 摺師が和紙に擦り重ねる
こうして木版画の印刷物が作られ、販売された。
1枚ものもあれば、冊子になって出版されたものもある。
浮世絵の役割
浮世絵は流行りものが出版され、人気を得ていました。
娯楽的な要素以外にも宣伝広告などにも使われたのです。
- 美人画や役者絵
- 物語の挿絵や絵本
- 流行ものなどの冊子
- 名所や風景画
- 団扇絵(うちわえ)
などなど。
現代の私達が本屋へ出向き、雑誌やポスター、漫画や画集などを買って楽しむのと同じ感覚のものであったようです。
浮世絵に描かれた梅
浮世絵には梅が描かれたものがいくつもある。
主役として、脇役として。
身近な花木であったこともあり、よく描かれていたのです。
- 美人画の引き立て役?に梅
- 画の添え物として梅
- 季節の歌になぞらえて
- 庭先に梅
- 旅先に梅
- 名所の梅
- 花鳥画に梅
- 物語の中の梅
浮世絵には人物以外に多くの植物が描かれています。
梅もそのうちのひとつに過ぎないのですが、春先に欠かせない植物。
美を追求したもの、日常を切り取ったものから物語の一場面まで。
至るところに梅が登場しています。
浮世絵の梅
実際にはどんな梅の描かれ方をしているのでしょうか。
いくつか紹介していきます。
美人と梅
浮世絵といえば美人画。
美人と梅、どちらが主役か引き立て役か。
共に美しさを競っている?
「夜の梅」絵師:鈴木春信(すずきはるのぶ)
画像出典:メトロポリタン美術館
夜の闇の中、明かりを照らし白梅を見る美人。
他にもさまざまあり、デジタルオンラインデータとして見ることが出来るので、各リンクとともに一部を紹介します。
- 「梅の枝折り」
絵師:鈴木春信
画像データ:文化遺産オンライン
塀の上の白梅を手折ろうとしている少女。
少女に背を貸すその下で、様子を見上げている女性。
- 「花桶」
絵師:石川豊信
画像データ:慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
帯には梅の柄。手には梅・水仙・椿を入れた花桶を持つ遊女。
梅に結んである短冊を見入っている。
- 「雛形若菜の初模様 江戸町弐丁目 玉屋内 梅の香 たての わかば」
絵師:磯田湖竜斎(いそだこりゅうさい)
画像データ:立命館大学芸術研究センター
太夫と二人の禿(かむろ)の着物には梅が描かれている。
「雛形若菜の初模様」は140以上はあるといわれる揃いもの。
新作着物の見本画シリーズ。今でいうファッション誌のようなもの。
「夜の梅」絵師:歌川国芳
画像出典:ミネアポリス美術館
立派な梅を背景に、三人の美人がそれぞれ佇んでいる三枚続きの作品。
- 「風流略六芸(やつしりくげい)・ 画」
絵師:鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)
画像データ:立命館大学芸術研究センター
女性の嗜みとして描かれた六枚揃えの美人画。
美しい女性が梅の絵を描いている。
他に「茶湯」「生花」「十種香」「和哥」「琴」がある。
名所の梅
庶民にお花見の風習が広まったのは、江戸時代の中頃だといわれている。
その頃には既に、花見の対象は梅というより桜?という感じに。
しかし当時も梅は人気があったようで、梅の名所の絵もいくつかあります。
浮世絵で梅といえば、広重の「亀戸梅屋敷(かめいどうめやしき)」
有名な画家、ゴッホが模写したことで知られていますね。
亀戸梅屋敷は梅の名所として知られている場所ですが、その他にも梅の名所の絵がありました。
- 「名所江戸百景 亀戸梅屋舗(かめいどうめやしき)」
絵師:歌川広重
画像データ:文化遺産オンライン
亀戸天神社付近にあった梅園を
一本の梅の枝越しに描かれた作品。
ゴッホが模写したことで有名な1枚。
- 「名所江戸百景 蒲田の梅園(かまたのうめぞの)」
絵師:歌川広重
画像データ:立命館大学芸術研究センター
蒲田の梅園と呼ばれる梅の名所での花見が描かれたもの。
その梅園の一部が現在も公園として残されているようです。
(大田区ホームページ「聖蹟蒲田梅屋敷公園」)
- 「東海道五拾三次〔行書東海道〕鞠子」
(とうかいどうごじゅうさんつぎ〔ぎょうしょとうかいどう〕まりこ)
絵師:歌川広重
画像データ:慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
前景に白梅・紅梅、背景にも白梅。
鞠子とは東海道の宿場町で、現代でも続いているめし屋がある。
広重は東海道五十三次のシリーズでこの場所を何度も描いています。
- 「江戸名所尽 梅屋舗臥龍梅開花ノ図」
(えどめいしょづくし うめやしきがりゅうばいかいかのず)
絵師:渓斎英泉(けいさいえいせん)
画像データ:文化遺産オンライン
梅の名所に臥龍梅が咲き、見物客が多く訪れている。
- 「婦人風俗尽 木下川梅園」
絵師:尾形月耕
画像データ:立命館大学芸術研究センター
美しい婦人とじいさまがゆるりと観梅している。
これは江戸ではなく、明治31年のもの。
選び方に偏りが…少々時代が飛びすぎましたね。
そのほかの梅の絵
そのほかにも様々なジャンルがありました。
そのなかの一部をご紹介。
日常を絵に起こした風俗画
- 「双六のけんか」
絵師:鈴木春信(すずきはるのぶ)
画像データ:慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
子供らが双六の最中でけんかをしている。
その背後の庭には白梅が咲く。
歌などに絵を加えたた摺物(すりもの)絵
- 「風流四季哥仙 二月 水辺梅」
絵師:鈴木春信
画像データ:慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
朱色の柵に登り、梅の枝を手折ろうとしている少年。
灯籠にすがり肘を付き、それを眺めている少女。
画の上部に歌が記載されている。
後拾遺集より「末むすぶ人の手さへやに匂ふらん梅の下ゆく水の流れは」
- 「魚づくし いなだ、河豚に梅(ふぐにうめ)」
絵師:歌川広重
画像データ:文化遺産オンライン
出世魚の「いなだ」・福の「ふぐ」・梅と縁起物揃い。
画中に記載されている歌には、いなた・ふくが潜ませてある。
「あたたかい なたのしほかせ ふくからに つほみもひらく 梅の折枝」
魚づくしのシリーズは40種類ある。
花鳥画に見る梅
- 「梅にうぐいす」
絵師:歌川広重
画像データ:文化遺産オンライン
- 「花鳥画 大短冊判 白梅に寿帯鳥」
絵師:歌川広重
画像データ:慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション
花鳥画はシンプルですが、さすが。
つい見入ってしまいます。
ここまで幾つか取り上げてみましたが、けっこういろいろありますね。
しかし今回ご紹介したものは、ほんのごく一部。
まだまだ他にも梅が描かれた浮世絵は沢山ありますよ。
後記
浮世絵は幅広く、作家の数も沢山居ます。
江戸時代の初期から後記、明治までを見てみると、流行り廃りなどもあり、作風も変わってきたりでなかなか面白いです。
浮世絵は、現代でも遜色ない作品も多く、広くてユーモア溢れる作品が沢山あり、なかなか沼…
ずぶずぶとその魅力にはまり込んでしまいます。
現在はインターネット上で画像検索もできるので、好みの絵などを探してみてはいかがでしょう。
それでは今回はこのへんで。
ここまでお付き合いくださいましてありがとうございます。
あなたのお気に入りが見つかるといいですねヽ(´ー`)ノ